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目通りも終わり、伊織と桜花はようやく緊張から解放されて城の廊下を歩いていた。
桜花はほーっと息を吐き、胸に両手を当てる。
余韻でまだどきどきしている。
そして隣ではさっきからやたらと、伊織がうれしげに表情をゆるませている。
「なあに? にやにやして」
「さっきの桜花の口上はよかったなあと思って」
「わたし、何か伊織が喜ぶようなこと言った?」
緊張していたし、夢中だったので、自分でも何をしゃべったのか、細かいところまではよく覚えていないのだ。
「ほら、最後の方の、『夫と共に力をつくす所存――』ってやつ」
思い出して桜花は頬を赤らめた。
言われてみれば、確かにそんな言葉を口走った気がする。
「夫、っていい響きだなあ。桜花、もう一回、言ってみてくれないか」
嫌よ、と桜花は首を横に振った。
「あの時は夢中だったの。今になったら恥ずかしくて言えないわ」
「そう言わずに、もう一度」
「嫌ですっ」
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