第一章 平穏

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 目通りも終わり、伊織と桜花はようやく緊張から解放されて城の廊下を歩いていた。  桜花はほーっと息を吐き、胸に両手を当てる。  余韻でまだどきどきしている。  そして隣ではさっきからやたらと、伊織がうれしげに表情をゆるませている。 「なあに? にやにやして」 「さっきの桜花の口上はよかったなあと思って」 「わたし、何か伊織が喜ぶようなこと言った?」  緊張していたし、夢中だったので、自分でも何をしゃべったのか、細かいところまではよく覚えていないのだ。 「ほら、最後の方の、『夫と共に力をつくす所存――』ってやつ」  思い出して桜花は頬を赤らめた。  言われてみれば、確かにそんな言葉を口走った気がする。 「夫、っていい響きだなあ。桜花、もう一回、言ってみてくれないか」  嫌よ、と桜花は首を横に振った。 「あの時は夢中だったの。今になったら恥ずかしくて言えないわ」 「そう言わずに、もう一度」 「嫌ですっ」
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