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その時。うおっほん、と、大きな咳払いが背後から聞こえた。同時に振り返ると、藤音の乳母である如月が立っている。
「お二人とも、昼間からお城の廊下の真ん中で痴話げんかでございますか」
「いえ、別に、そのようなものでは……」
赤面して、もごもごと反論する伊織にはかまわず、
「まったく、最近のお若い方々は……」
と渋面を作ってみせる。
「仲のよろしいのは結構ですが、場所がらをわきまえてくださらねば。だいたいですね……」
「申し訳ありませぬ。以後、気をつけまするっ」
如月の小言をさえぎるようにして、伊織は桜花の手を引き、そそくさと逃げ出す。
逃げこんだのは城内で伊織が使っている部屋。二人は息を弾ませながら、顔を見あわせ、笑い出した。
「まさか、あんなところで如月どのに会おうとはな」
如月はこの城ではいわば新参者だが、貫録充分、歯に衣着せぬ強者である。
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