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まばたきして瞳をこらすと、隣で隼人が心配げにこちらを見つめている。
首の後ろで簡単に髪を結んだ、聡明そうな面ざし。
年はまだ十七だが、亡き父の跡を継いだ草薙の地の領主である。
見慣れた城の一室。
額に浮かぶ汗を手でぬぐいながら、藤音はほうっと息をついた。
「どうした? うなされていたようだけど」
夢をみました、と藤音はぽつりと答えた
「申し訳ございません。わたくしのせいで隼人さままで起こしてしまって……」
「そんなことは気にしないでいいけど、どんな夢?」
「……戦の夢でございます」
夢と片づけてしまうには、あまりに生々しい情景。
胸はまだ恐怖に波打っている。
藤音のそんな言葉に隼人の表情がわずかに曇ったが、すぐに微笑して、
「ただの悪い夢だよ」
安心させるように藤音の肩を抱き寄せる。
「戦などもう起こらない。こうして藤音がわたしのもとへ嫁いできてくれたのだから」
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