277人が本棚に入れています
本棚に追加
「おじいさまはもうずっと遠海で暮らしているし、父さまが亡くなった後を継いでわたしがお城に上がってからは、誰も住んでいないの。
もちろん、いつでも住めるように手入れは頼んであるけれど。だから、あなたさえ嫌でなかったら……」
返ってきたのは、嫌なはずないだろう、という笑顔。
「俺は気楽な次男坊だし、あのお屋敷には子供の頃、よく遊びに行って思い出もある。何より桜花の大切な家だ。二人で住めたらとてもいい」
「伊織……」
瞳をうるませながら、桜花は伊織の胸にこつん、と頭をもたせかけた。
「忙しくなるわね。祝言の仕度をして、新しい生活の準備もして……」
ああ、とうなずいて、桜花の髪をさらっとなでる。
「早く、一緒に暮らしたいわ」
桜花の背中を両腕で包みながら、伊織はそっと告げた。
「俺もだ。できるなら今すぐにでも、桜花と暮らしたい」
最初のコメントを投稿しよう!