第一章 平穏

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「おじいさまはもうずっと遠海で暮らしているし、父さまが亡くなった後を継いでわたしがお城に上がってからは、誰も住んでいないの。  もちろん、いつでも住めるように手入れは頼んであるけれど。だから、あなたさえ嫌でなかったら……」  返ってきたのは、嫌なはずないだろう、という笑顔。 「俺は気楽な次男坊だし、あのお屋敷には子供の頃、よく遊びに行って思い出もある。何より桜花の大切な家だ。二人で住めたらとてもいい」 「伊織……」  瞳をうるませながら、桜花は伊織の胸にこつん、と頭をもたせかけた。 「忙しくなるわね。祝言の仕度をして、新しい生活の準備もして……」  ああ、とうなずいて、桜花の髪をさらっとなでる。 「早く、一緒に暮らしたいわ」  桜花の背中を両腕で包みながら、伊織はそっと告げた。 「俺もだ。できるなら今すぐにでも、桜花と暮らしたい」
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