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冴えない表情は伊織も同じである。
後任が決まればすみやかに祝言を挙げて、と考えていたのに、話は止まってしまったままだ。
桜花が巫女の座を降りられなければ、いつまでたっても自分のもとへ嫁ぐことができないではないか。
城の自室で刀の手入れをしつつ、こちらも盛大に吐息していた。
隼人と藤音もまた、そんな二人を心配していた。
かといって自分たちにも心当たりはない。
かつて草薙の神職を司っていた桜花の祖父が探せないでいるのだから、簡単に見つかるはずもない。
「困りましたわね……」
城の広間。隼人に寄せられる報告の合間をぬって、藤音は憂いた表情をみせた。
「こんなに難航するとは思わなかったな。草薙の領内には神官も巫女も大勢いるはずなのに」
「桜花が不憫ですわ。あれほど幸せそうにしていましたのに」
などとつらつら話しているところへ、次の報告の者がやって来る。
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