第二章 蘇芳(すおう)

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 今度の内容は報告というより陳情だった。  先月の大雨で村の川が氾濫し、作物に被害が出てしまったので、今年の年貢を下げていただけまいか、という申し出である。  こんな場合、隼人はきちんと調査をして、申し出が事実なら大幅に年貢を下げる。  きわめて温情厚い処遇で、おかげで城の蔵はいつも空っぽだと、家老の結城などは嘆いている。  やりとりの間は藤音はほとんど口をはさむことなく、かたわらで聞いているのだが、時々父を思い出した。  藤音は白河の領主の息女として生まれ、隣国の草薙の領主のもとへ嫁いだ。  だからずっと領主というものを見ているのだが、父と隼人ではだいぶあり方が異なっている。  父は領地の細かい内情などは、ほとんど家臣たちにまかせていた。  そして自分は都の政情や、今どこで戦が起こっているのか、次は誰が上洛するのか、もっぱら国の外の情勢に心をくだいてきた。
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