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しかし隼人は違う。
領内と領民に気をくばり、この国に関わってこない限り、誰が上洛しようと、ほとんど興味を示さない。
城にいる時は毎日、領地内でのさまざまな報告を受けるし、時には伊織たち少数の供だけを連れて視察に出かける。
そのため国中の者によく顔が知られているし、親しまれてもいる。
厳格だった父とは、真逆に近い。
今日の分の報告は例の陳情で最後だった。隼人はうーん、と伸びをすると、藤音の方に視線を向けた。
「藤音」
はい? と藤音も隼人を見る。
「これで今日の仕事はおしまいだ。時間も早いし、よかったら、城の中で案内したいところがあるのだけど」
「このお城の中を、でございますか?」
藤音は不思議そうな顔をした。半年近く暮らしたこの城で、どこかまだ自分の知らない場所があるのだろうか。
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