第二章 蘇芳(すおう)

4/33
前へ
/306ページ
次へ
 しかし隼人は違う。  領内と領民に気をくばり、この国に関わってこない限り、誰が上洛しようと、ほとんど興味を示さない。  城にいる時は毎日、領地内でのさまざまな報告を受けるし、時には伊織たち少数の供だけを連れて視察に出かける。  そのため国中の者によく顔が知られているし、親しまれてもいる。  厳格だった父とは、真逆に近い。  今日の分の報告は例の陳情で最後だった。隼人はうーん、と伸びをすると、藤音の方に視線を向けた。 「藤音」  はい? と藤音も隼人を見る。 「これで今日の仕事はおしまいだ。時間も早いし、よかったら、城の中で案内したいところがあるのだけど」 「このお城の中を、でございますか?」  藤音は不思議そうな顔をした。半年近く暮らしたこの城で、どこかまだ自分の知らない場所があるのだろうか。
/306ページ

最初のコメントを投稿しよう!

277人が本棚に入れています
本棚に追加