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乱世の常で城の地下に抜け道くらいはあるだろうが、そういう類とも別のようだ。
「わたしの個人的な秘密の場所なんだ。確か藤音にはまだ教えていなかったと思うのだけど」
くすっと藤音は笑った。
秘密の場所などと、一国の領主が童のようなことを言う。
「ええ、存じませんわ。ぜひ連れて行ってくださいませ」
打掛もはおらず、身軽な小袖姿で藤音は隼人に手を引かれ、城の中庭を歩いていった。二人きりの時は着飾る必要もない。
庭の片隅にその建物はあった。木立の中、簡素な木造りの、掘っ建て小屋と呼んでもいいような代物だ。
「こちらで、ございますか」
なかば呆気にとられる藤音をよそに、隼人は簡単な閂を外す。
「さあ、どうぞ」
誘われ、足を踏み入れた藤音は驚いて内部を見回した。
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