第一章 平穏

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 藤音は隼人より三つ年上で、艶やかな黒髪と透き通るような白い肌の美しい姫だ。  時の経つのは早いもので、白河から隣国・草薙の九条家に嫁いでから、半年近くが過ぎようとしている。  長年に渡る領地争いの果て、和睦の証としての縁組。  人質同然に嫁ぎ、頑なに心を閉ざしていた藤音を変えたのは、夫となった隼人の誠実むな優しさだった。 「まだ夜明け前だ。もう少し眠るといい」  藤音の髪を撫でながら、隼人が耳もとで穏やかな声で告げる。  なじんだ腕枕に頭を乗せ、ぬくもりに包まれながら藤音は眼を閉じた。  今度、父に文を書かなくては。  なかなか書けずに今日まできてしまったが、きっと心配しているだろう。  長い文は苦手だから短くていい。  夫に大切にされて藤音は幸せに暮らしております、とだけ……。  
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