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藤音は隼人より三つ年上で、艶やかな黒髪と透き通るような白い肌の美しい姫だ。
時の経つのは早いもので、白河から隣国・草薙の九条家に嫁いでから、半年近くが過ぎようとしている。
長年に渡る領地争いの果て、和睦の証としての縁組。
人質同然に嫁ぎ、頑なに心を閉ざしていた藤音を変えたのは、夫となった隼人の誠実むな優しさだった。
「まだ夜明け前だ。もう少し眠るといい」
藤音の髪を撫でながら、隼人が耳もとで穏やかな声で告げる。
なじんだ腕枕に頭を乗せ、ぬくもりに包まれながら藤音は眼を閉じた。
今度、父に文を書かなくては。
なかなか書けずに今日まできてしまったが、きっと心配しているだろう。
長い文は苦手だから短くていい。
夫に大切にされて藤音は幸せに暮らしております、とだけ……。
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