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「桜花どのなら今日は休みで、遠海の祖父どのに会いに行くという話だったけど」
「遠海に……」
藤音は夏の間過ごした海辺の村を懐かしく思い出した。波音の響くあの里で、自分たちは初めて心が通いあったのだ。
「そういえば今日は伊織も非番だったはず。二人で遠海の祖父どののところに出かけたのかな」
かもしれませんわね、と藤音は相槌を打った。
桐生伊織は隼人の身辺警護を務める若者で、桜花とは幼なじみであり、似合いの恋人同士だ。
わざわざ二人で遠海にいる桜花の祖父に会いに行ったということは、もしかしたら……。
「藤音さま、起きていらっしゃいますか」
自分の想像に唇をほころばせたところで、襖のむこうで如月の声がした。
藤音がええ、と応じると、失礼いたします、と襖が開けられる。
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