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伊織は桜花をきつく抱きしめたまま、絞り出すような声で告げる。
「戦が始まる……」
「え?」
桜花も他の人々と同様、とっさには状況が理解できなかった。
「戦って、どういうこと? いつ、どこで、誰と誰が戦うというの!?」
隣国の白河との長年の領地争いが、ようやく終わったというのに。
「柊蘇芳どのが帝の命令を伝えてきた。来年早々、わが国は海を越えて羅紗国へ出陣する。草薙からも兵を出すようにとの仰せだ」
「そんな……」
伊織の腕の中で桜花は途方に暮れたようにつぶやいた。
「隼人さまは、そのような命令を承知されたの !?」
「いや、少し考える時間が欲しいと即答は避けられた。だが結論は同じだ。帝の命令に逆らうことは許されぬ。もし拒めば、羅紗に出兵する前に草薙が滅ぼされよう」
武人である伊織にはよくわかっていた。この小さな領地など、帝の名の下に集まった大軍の前にはひとたまりもないだろう。
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