第三章 嵐

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 伊織は桜花をきつく抱きしめたまま、絞り出すような声で告げる。 「(いくさ)が始まる……」 「え?」  桜花も他の人々と同様、とっさには状況が理解できなかった。 「戦って、どういうこと? いつ、どこで、誰と誰が戦うというの!?」  隣国の白河との長年の領地争いが、ようやく終わったというのに。 「柊蘇芳どのが帝の命令を伝えてきた。来年早々、わが国は海を越えて羅紗(らしゃ)国へ出陣する。草薙(くさなぎ)からも兵を出すようにとの仰せだ」 「そんな……」  伊織の腕の中で桜花は途方に暮れたようにつぶやいた。 「隼人さまは、そのような命令を承知されたの !?」 「いや、少し考える時間が欲しいと即答は避けられた。だが結論は同じだ。帝の命令に逆らうことは許されぬ。もし拒めば、羅紗に出兵する前に草薙が滅ぼされよう」  武人である伊織にはよくわかっていた。この小さな領地など、帝の名の下に集まった大軍の前にはひとたまりもないだろう。
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