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如月は年の頃は四十代半ば。輿入れに付き添ってきた藤音の乳母で、忠義心厚い、しっかり者である。
「朝餉のご用意ができております。どうぞお召替えを」
そうして始まる、いつもの日々。
小さな城でのつつましい毎日だが、藤音は今の暮らしが好きだった。
多くは望まない。
この穏やかな日々が続けば、それでいい――。
一方、遠海にある天宮家の屋敷では、藤音の想像通り、桜花の祖父である十耶が満面の笑みを浮かべていた。
「ほう……決心しなすったか」
自らたてた抹茶を片手に、嬉し気な声を出す。
髪も髭も真っ白で仙人のごとき十耶は天宮家の当主であり、両親を亡くした桜花の唯一の肉親だ。
かつては草薙の神職を司る立場にあったが、今は隠居の身で、この海辺の村で静かに暮らしている。
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