第一章 平穏

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 十耶と向かいあって座った桜花と伊織は、婚儀の報告に来たものの、いざとなると緊張してしまって、どうにも落ち着かない。 「桜花はいくつになったかな」 「十八ですわ、おじいさま。伊織も同じです」  答える桜花はいつもの巫女装束ではなく、淡い橙色の小袖姿。伊織は髪を上でまとめ、やや改まった上着と袴を身に着けている。 「いつ二人が一緒になるのかと、楽しみに待っておったのじゃよ。殿にはもう話されたのかな」 「いいえ、まずはおじいさまに、と思って」 「一番に来てくれるとは嬉しいのう。伊織どのは家の方々には?」 「城下に戻ったら父に話すつもりでおります」  返答しつつ、伊織は複雑な思いにかられていた。  実は最初に桜花に求婚したのは兄の和臣(かずおみ)なのである。  いろいろあって結局、縁組の話は流れたのだが、その後で自分が桜花と祝言を挙げるとなると、継母である霧江にはいささか話しづらい。
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