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十耶と向かいあって座った桜花と伊織は、婚儀の報告に来たものの、いざとなると緊張してしまって、どうにも落ち着かない。
「桜花はいくつになったかな」
「十八ですわ、おじいさま。伊織も同じです」
答える桜花はいつもの巫女装束ではなく、淡い橙色の小袖姿。伊織は髪を上でまとめ、やや改まった上着と袴を身に着けている。
「いつ二人が一緒になるのかと、楽しみに待っておったのじゃよ。殿にはもう話されたのかな」
「いいえ、まずはおじいさまに、と思って」
「一番に来てくれるとは嬉しいのう。伊織どのは家の方々には?」
「城下に戻ったら父に話すつもりでおります」
返答しつつ、伊織は複雑な思いにかられていた。
実は最初に桜花に求婚したのは兄の和臣なのである。
いろいろあって結局、縁組の話は流れたのだが、その後で自分が桜花と祝言を挙げるとなると、継母である霧江にはいささか話しづらい。
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