第一章 平穏

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第一章 平穏

 藤音(ふじね)は闇の中をひとり彷徨(さまよ)っていた。  ここはいったいどこなのか、まるでわからぬまま、周囲を見回すと遠く前方に光が見える。  深い闇の中でその場所だけがくっきりと鮮やかな赤い色を放ち、引き寄せられるように足を向ける。  だが、近づいてみると、すぐさま異変に気づいた。  赤い光と思ったそれは家々や畑を焼き払う紅蓮の炎だったのだ。  武具のぶつかりあう音。飛び交う怒号。馬のいななき。逃げまどう人々の悲鳴。  藤音は慄然とした。  ここは、戦場(いくさば)だ。  なぜ、自分はこのようなところに……!?   混乱する藤音の前に突然、黒い影が立ちはだかり、刃を振り下ろそうとする。  逃げようとしても金縛りにあったように身体が動かず、かすれた悲鳴を上げた刹那。 「藤音」  どこかから自分の名を呼ぶ声が聞こえ、肩が軽く揺すられる。  そこで、眼が覚めた。
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