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第五章 羅紗(らしゃ)
蒼天の下、冷たくはあるが海風が心地よく吹きすぎていく。
早朝に真砂の港を出てから、半日ほど。
隼人は船の舳先に立ち、前方に眼をこらした。
といっても視界に映るのは海ばかりだ。
果てしなく続く海原には島影ひとつ見えない。今、世界にあるのは空と海と自分たちの船だけのような気がしてくる。
ふっと藤音にもこの風景を見せてやりたいと思った。これが戦に行くのではなく、藤音が一緒だったら、どんなにか楽しいだろう。
「波は少々高いですが、順風です。この調子なら十日とかからずに羅紗の港に着きましょう」
隣で曽我兼光が説明してくれる。隼人はこの水軍の老当主と共に、先頭を進む安宅と呼ばれる軍船に乗っているのだ。
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