276人が本棚に入れています
本棚に追加
/306ページ
「ついては桜花にも要請があった」
「わたしに?」
桜花は大きくまばたきした。戦えもしない自分に何をしろというのか。
「九条家に仕えし巫女は舞いの名手。出陣の際には戦勝祈願の舞いを奉納せよ、との意向だ」
どう返答してよいか、桜花はわからなかった。
いったい、どんな勝利を祈れと?
そして下された命令は二人にとって重い枷となった。
つまり桜花は出陣の時まで巫女であり続けなければならない。
後任の者が見つかっても、すぐには巫女の座を降りられない。祝言を挙げて伊織と結ばれることはできないのだ。
かといって断るなどできるはずもなかった。拒絶すれば隼人の立場を悪くしてしまう。
桜花はすがるように伊織を見上げ、問いかけた。
「ねえ、教えて。何のための戦なの? 羅紗国が攻めてきたわけでもないのに、どうしてわざわざ海を越えて、そこに住む人たちを殺しに行くの……?」
最初のコメントを投稿しよう!