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彼女は何がしたいのだろうか。何方でも構わないので教えて欲しい、切実に。情緒不安定なのか、それとも演技派故に熱くなってしまっているのか不明である。僕的には後者であってほしい。
「嫉妬で狂ってしまい理解不能な言動で彼氏さんを困らせてしまった超絶可愛い私。そして彼氏さんは私の幼気で繊細な気持ちに気付き、優しく抱擁をします」
「えっ」
「優しく、抱擁、しますっ」
「普通に嫌ですけど」
「私の事が嫌いなのですか!?」
「恥ずかしいからしたくないし」
「……まぁ、恥ずかしいのでしたら大目に見てあげます。仕方がありませんね。今回だけですからね」
彼女は僕から視線を逃れるよう背中を向ける。他愛ない遣り取りをしていると、既に時間は夕暮れ時となっていた。
教室の窓から暖かな茜色の光が差し込み、何気ない教室内を幻想的な雰囲気へと姿を変える。彼女は後ろで両手を組みながら窓から見える外の景色を眺め、次第に何かを決心するかの如く深呼吸を繰り返す。
何が重要な内容の話をするのか。彼女が何を伝えようとしているのか、今の僕には分からない。只々、彼女から口にする言葉を待つ。
「気になる人が出来ました」
「……え?」
彼女が振り返り、紡ぎ出した言葉に単純な反応しかできない僕。気になる人が出来た、そう彼女は僕に伝えてきたのだ。
何故、僕に伝えたのだろうかと考える。僕に教えたと言う事は手伝ってほしいと解釈すべきだろう。そうでなければ伝える意味がない。
幼馴染である僕に協力依頼だろう。信頼されている僕にしか出来ない仕事内容。彼女の為であれば僕の返事は決まっていた。
「……そっか。僕でよければ手伝うよ」
言葉の内容とは裏腹に、心が何かを誤魔化すように蓋を被せる。芽生えてしまった感情を、僕が彼女に対する本当の想いを厳重に封じ込めた。
「ありがとう」
感謝の言葉を言われたのに喜べない。初めての喜べない感謝をされた。それでも顔に出さないようにして僕は返答を行う。
「気にしないでいい」
嘘だ。本当は気にして欲しい癖に。彼女が僕以外の誰と共に歩く姿を想像したくなかった。声を大にして考え直して欲しいと伝えたい。
だが、彼女を引き止めて何になる。折角彼女に気になる人が出来たと嬉々と報告されて、僕の個人的な感情を剥き出しにして発言出来ない。彼女の決心を揺らぐ事はしたくないのだ。
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