はつこい白書

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作業着とも言えるエプロンを身に付けて、髪が落ちないようバンダナを頭に結んでいると、リビングに続く部屋がガチャリと音を立てて外側に開いた。 (仕事部屋から、滅多に出てこないって言ってたのに……) 中から現れた長身の人影にやや驚きながらも、萌は緊張の面持ちで頭を下げる。 「美山家事代行サービスの月岡萌と申します。 美山が休みの一週間の交代要員ですが、よろしくお願い致します」 萌が声をかけても何も反応がなく萌が恐る恐る顔を上げれば、仕事部屋の前には洗練され上に立つ者の風貌を見に纏ったかのような男性が、微動だにせず萌をじっと見つめていた。 髪は漆黒のような深い色合いで左の前髪だけが長く、一見すると怖そうな切れ長の目を隠すように耳のあたりまで下ろされている。 スッと高く通った鼻梁に、男性にしか見えないはずなのに大人の色気を醸し出している相貌に見つめられれば、どこか綺麗な芸能人を前にしたときのような緊張を感じた。 「ああ……」 聞こえるか聞こえないかという小さな声でポツリと呟いた純は、萌を見定めするかの視線を向ける。 特に萌に興味があるというわけではなさそうだが、見られ続けることは居た堪れなく、萌は純から視線をそらした。 「すみません……仕事を始めてもよろしいでしょうか?」     
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