はつこい白書

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そして会社の業務内容が家事代行サービスであるからか、ビルは綺麗に清掃が行き届いていて、設立から十年は経とうというのにまだ壁や窓も真新しい様子だ。 「えっ!?明日からですか?」 萌は自身が働く会社、美山家事代行サービス社長の息子である、美山聡(みやまさとし)に応接室に呼び出されていた。 そこで聡から告げられたのは、聡が現在家事代行を請け負っている顧客のマンションに代わりに行って欲しいというものであった。 美山家事代行サービスは富裕層向けの家事代行を請け負う会社で、高い料金設定だからこそ完璧な仕事が求められ、多少の無理難題には対応する、がモットーの会社である。 しかし、新規の顧客は少なく大体はリピーターで一月前からスケジュールは決まっているため、萌も急な交代に戸惑いを隠せない。 「ああ、悪い。 うちの奥さんが急に盲腸で入院することになってさ。 娘を保育園にと思ったんだけど、運悪く娘まで胃腸炎にかかっちゃったんだよ……。 ほら、うちの両親も働いてるし、さすがに俺が見るしかないからさ。 萌ちゃんには本当に申し訳ないんだけど……」 聡はいつも下がっている眉を更に下げて困り顔をする。 萌よりも八は年上のはずだからもう二十代後半のはずなのに、その縋るような視線は小型犬の可愛らしさのようなものがある。     
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