はつこい白書

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職業柄スーツを着ることが少ないためか、聡は随分若く見える。 その優しげな風貌も相まって、初めて会った時は保育士の仕事をしている人だと萌は思った。 風貌通りの真面目な性格で、仕事には厳しく割と無駄なくテキパキとこなす聡だが、オンとオフをきっちり分けているのか仕事以外では基本緩く、家族には頭が上がらないらしい。 「あ……いえ、奥さんも娘さんも大変ですね……でも私、明日から別なところの仕事が決まってたんですけど、それはどうしましょう」 「ああ、そっちは別な人に頼むことにしたから大丈夫」 社長の息子である聡が萌に頼むということは、余程のことがあってのことだとは思ったが、萌にも小さな子どもがよく体調を崩す……ということはよく知ったことであり、その大変さも分かっている。 しかし、ちょうど昨日仕事を終えたところで、明日からはまた別の家に入ることになっていた萌をわざわざ起用するのは何故だろう。 ベテランスタッフは数多く居るし、まだ二十歳になったばかりで入社二年目の萌は新人とも言える。 萌が首を傾げていると、察しの良い聡が言葉を継いだ。 「花菱様宅……俺がずっと担当してたのは知ってるよね?」 「はい……」     
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