はつこい白書

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「顧客のことを吹聴して回るわけにはいかないから、言ったことはないんだけどさ。 家事という家事がてんでダメな人で、しかも女性嫌いらしく、うちに依頼があった時も男性で完璧に家事をこなしてくれる人を希望してた。 元々男性スタッフが少ないからもうずっと俺が担当してるんだけど、掃除だけ、洗濯だけってわけじゃなく家事全般の依頼だから拘束時間が長いんだ。 朝9時から午後5時まで。 ほら、うちって女性でも年配の契約社員が多いだろ?だからその時間で働ける人って限られてしまってさ……」 聡が話しながらも萌をチラリと窺うように見るのは、万が一断られたら本当に困るからだろう。 仕事内容によっては、臨時の手当てがつくことがあるのだが、聡が言うには花菱邸での仕事もその対象だと聞く。 萌にとっても、お金を貯めるという目標があるため手当て等は有難く、たとえどんな仕事でも断るつもりはなかった。 一抹の不安があるとすれば聡の言う女性嫌いだということだが、いつまでも困り顔をする聡に萌は分かりましたと頷いた。 「私で良ければ、花菱様宅行かせていただきます。 ……でも、女性嫌いなんですよね?」 「ああ、そのことは花菱様にも了解は取ってあるから大丈夫。 事情を話したらご理解いただけた。 妻も一週間で退院出来そうだからその間だけだし。 それに、仕事部屋には入るなと言われているから入ったことはないけど、殆どずっと部屋で仕事をしてるから滅多なことじゃ顔を合わせないと思うよ」 滅多に部屋から出ず女嫌い……とは一体どういう人なのだろうと思わないこともなかったが、そこは給料の良い仕事として割り切ることにした。 聡は安心したのか、元々細くなで肩気味の肩をさらに下げ席を立つ。     
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