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厳重に鍵のかかった金庫の扉を開けると、中に入った数々の鍵の中から一つを取り出し、萌に差し出した。
「これ、花菱様宅の鍵。 インターフォンも不要、挨拶も不要。 とにかく仕事部屋以外の掃除、昼食夕食の準備、洗濯を完璧に終わらせればいい。 ただとにかく広いから、時間は足りないぐらいだけど、萌ちゃんなら大丈夫だと思う」
「買い被りすぎですよ……。 でも大事なお客様なんですよね、頑張ります」
萌は鍵を受け取ると、バッグの中のファスナーの付いた小物入れに入れる。
一応保険には入っているとはいえ、お客様から預かった鍵を紛失するということは、信頼を失うことになる。
萌も美山家事代行サービスで働く従業員は、皆鍵の管理は徹底して行っていて、契約社員やパートも数多くいるが社員研修はかなり厳しく行われている。
会社に大きな利益をもたらしてくれる大事な顧客であり失敗するようなことはあってはならないと、萌は若干の不安を感じながらも聡へお疲れ様でしたと挨拶を済ませ会社を出た。
二
萌は元々家事全般が得意だった──いや、得意にならざるを得なかった。
人に話せば、不幸な境遇だと言われるかもしれない……しかし、萌は自分自身を不幸だと思ったことはない。
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