はつこい白書

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施設にはもちろん先生と言われる責任者や働くスタッフがいるが、萌も小学生頃には自発的に小さい子の面倒を見るようになった。 様々な事情で預けられた子どもたちの中には、誰に対しても心を開かないという子も大勢いて、彼らが今まで経験出来なかった毎日の普通の生活こそが傷付いた彼らを救える唯一の方法だったからだ。 大人の事情などは何も知らなかったが、両親がいない、両親と暮らせないという環境は皆同じで、萌も透も心に傷を負った小さな子どもたちのことは他人事ではない。 萌は掃除に洗濯、食事作りの手伝いなど率先して行い、透だけではなく施設で過ごす他の子どもたちからも萌お姉ちゃんと慕われていた。 二年前に高校を卒業し働き始めた萌は、仕事が休みに入ると必ず透の住むたんぽぽを訪れる。 それは今日も例外ではなく、聡の呼び出しに応じた足で萌はたんぽぽへやって来た。 元々ここに来ようと家を出る直前に聡から電話がかかって来たのだ。 仕事をし、会社の独身寮で何とか生活出来ている萌だが、透の面倒を一人で見れるほど経済的余裕はなく兄弟離れ離れの生活が続いていた。 その独身寮も聡の父である現在の美山家事代行サービスの社長が、慈善活動に積極的な人間であることが関係している。     
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