はつこい白書

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聡の父は萌たちが過ごしたたんぽぽだけではなく、他の児童養護施設に住む子どもたちへも就職などの斡旋を行なっていて、まだ収入も少なく一人暮らしせざるを得ない子どもたちのためにと会社に独身寮を作らせたという経緯があった。 萌が簡単な面接だけで美山家事代行サービスに入社出来たのは、聡の父のおかげだったのだ。 「透……学校はどう?」 萌は一頻り子どもたちの相手を終えると、温かみのある広々としたリビングにある二十人は座れそうな大きな木のテーブルの端で、透と向かい合って座っていた。 学校はどうかという会話も、先週萌の仕事が休みの際会って話したばかりで、萌にとっては離れて暮らす弟への挨拶のようなものだ。 透はこの春高校三年生に進級し、たんぽぽで過ごす最後の一年ということになる。 今後の進路についても話し合わなければならないが、姉と弟の間では意見に大きな隔たりがあり、結局は世間話をしアパートへ帰ることが多かった。 透は萌と良く似た丸く大きな瞳が印象的で、萌の癖っ毛は母親譲りだが透は父親に似たのか髪質は固く真っ直ぐだ。 中学の頃に身長はすでに抜かされていて、萌は立ち話をする時透を見上げなければならない。 「姉ちゃん、先週も聞いたよ、それ」 萌の問いに対して透がそう答えるのも先週と全く同じで、思わず顔を見合わせてクスッと笑う。     
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