はつこい白書

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萌の愕然とした表情を聡がどう捉えたかは不明だが、唇を噛み締め何かを耐えるように話す聡に何と言葉をかけていいのか分からない。 「父さんから話を聞いたのはだいぶ前だけど、それまでは社会奉仕活動になんて全く興味がなかった父さんが、急に募金をし始めたり養護施設にクリスマスプレゼントとか送ったりしてさ。 母さんも俺も不思議に思ってたんだ。 話を聞いてから数年して……萌ちゃんがうちに入って来た時、やっと父さんの気持ちが分かったよ。 俺は、この子の両親を奪ってしまったんだって」 「どうして……今、あたしに話そうと思ったんですか?」 普通の感覚ではないのかもしれないが、萌は両親の亡くなった経緯を冷静に受け止めていた。 ただ、どうしてこのタイミングで聡が話をする気になったのか疑問に思っただけだ。 「萌ちゃんが花菱邸の専属になるってことで、俺は別のところに行くはずだったんだけど。 それなら、そろそろ社長を継いでもいいんじゃないのかって話が父さんからあったんだ。 だったら、ちゃんとケジメをつけさせて欲しいって頼んだ」 今まで九時から五時までという長い時間同じ場所で働いてきたことで、なかなか経営者としての勉強が進まず、聡が会社を継ぐのは先になると思っていた。 聡の言うケジメが萌のことだったのだろうか。     
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