はつこい白書

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「萌ちゃんが両親がいないことを卑下したり、誰かを恨んだりする子じゃないって分かってるし、父さんにも萌ちゃんに話したところで自己満足にしかならないって言われたけど……でも、どうしても謝りたかった。 幼い君から両親を奪ってごめん、透くんを親の知らない子にしてしまってごめんって」 「聡さん……」 聡は全てを話し終わると、短く息を吐きハハッと自嘲的に笑った。 「ごめん……父さんの言う通りだ。 こんなの、結局許されたいって思う俺の自己満足にしかならない」 忘れてくれ、そう言いたいげな瞳で聡は萌を見つめる。 しかし、忘れられるわけがないし、萌の気持ちは決まっている。 「私は……聞いてよかったと思います。 今まで不思議にも思わなかったけど、純さんからどうして幼い君たちを残して出かけたのかって聞かれた時、初めて両親の死に疑問を抱きました……って言っても、別に聞いたからって聡さんや社長に思うところはありませんけど。 今はスッキリしてます」 聡の許されたかったという想いは萌には分からないが、もし重い枷を背負って生きて来たならば、これから先少しは軽くなればいいと思う。 亡くなった人は生き返らないが、今を生きている人が辛い想いを抱えてほしくはない。 聡はありがとうと小さな声で呟くと、いつも通りの優しげな微笑みを浮かべて萌に告げた。 「幾ら恋人宅だからってあんまり気を抜き過ぎないようにね……まあ萌ちゃんなら心配ないか」 翌日、妙な緊張感で純のマンションのドアを開ける。     
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