はつこい白書

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「なあ、それよりさ。 その明日からの仕事って、独身の男の家だろ……姉ちゃん大丈夫かよ?」 「うん……うちの会社は元々身元のしっかりした人が顧客だから大丈夫だよ。 それに聡さんから頼まれた仕事だしね」 透は何度か会った聡のことは、児童養護施設で育った姉を受け入れてくれた就職先の人として随分信頼を置いているようだ。 もちろん萌も社長の息子という立場にありながらも、社長が健在であるうちは実務経験をと他のスタッフと同じ仕事を完璧にこなしている聡のことは十分に信頼している。 それに、実務だけではなく花菱邸での仕事を終えた後会社に戻り、社長や副社長から経営についてを学んでいることも知っている。 聡は長女の萌にとってみれば頼りになる年の離れた兄のような存在でもあった。 透はそれなら大丈夫かと、幾分か心配そうな目付きが和らぐが、高校生ながらにしっかりしている透はたった一人の血の繋がった家族である姉のことが心配でならない。 「でも……前みたいなこともあるんだからな。 姉ちゃん女なんだし、気を付けろよ」 「分かってるよ、ありがと透」 萌は息を一つ吐くと、前に座る透の目を見つめ意を決したように言葉をかける。 「ねえ、進路……のことだけど……」 三     
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