木花咲耶伝説の殺人

１.旅のはじまり

　総重量５kgはあろうかという、重いバックを担ぎなおして、リサコが急かす。土曜日、朝８時３０分、西武線の駅目指して三人は歩調を早めた。新宿発９時４０分の高速バスで富士吉田まで、宿は河口湖でとっている。気楽なＯＬ三人組の温泉旅行……の、ハズ、だった。

　誰が言いだしたのか、それは８月には既に決まっていた。２ヶ月前から予約した、リサコ希望の富士山の見える大浴場つきの、和風旅館（これは三人共通の希望）である。元々幹事気質のリサコがプランニングした今回の旅は、ともかくそんなふうに幕を開けた。

　一泊二日、土日を利用した温泉旅行の前日は、新宿に便利な路線に住んでいるキョウカの部屋に金曜の夜に集まって一泊し、全員で新宿へ向かう事になっていたのだが、久しぶりに三人揃った事に、思わず祝杯を上げてしまい、時間ギリギリの出発になり、大急ぎで（いくつかの忘れ物をしつつ）電車に飛び乗った。

　三人は、大学の学生寮で出会った。正確にはあと一人を含め、四人部屋になったのがきっかけで、何となく気が合い、卒業してからも付き合いが続いている。四人目、孔府楽夢音(こうふらむね)は、卒業後、帰郷してしまった為、頻繁には会えないが、都内に就職した三人は、女子会と称して飲みに行ったり、連れ立って旅行に行ったりしていた。