第1章:棄民

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今回県から花嫁募集の話があってどうせ嫁ぐなら、異郷で私を待っていてくれる孤独な夫の所に行こうと思ったの……」 「……」 「相手の方とは面識があるの?」 「ううん、写真だけ、私達写真結婚なの……」 「それで、もし上手く行かなかったらどうするんだ?」  茂は他人のプライバシーの領域に踏み込んでそんな質問をした。 「その時は諦めるわ、私諦めるの上手なの、只で南米旅行させてもらったと思えば諦めもつくわ……」 「……。」  鈍い単調なディーゼルエンジンの振動が伝わってくる。  暗い洋上から星空を眺めると心が洗われたように純真な気持ちになった。一人南米に旅する己の運命が悲しかった。日本に生まれながら何故南米に行く道を選んだのか、その必然性が判らなかった。 「僕も早く父を無くし、母も去年逝ってしまった。母の苦労を知りながら、僕は自分の事しか考えられなかった。年老いた母の面倒を見るのが当たり前なのに、僕はこの閉鎖的な日本から逃げ出す算段ばかりしていた。学歴も無く、有力なコネもない人間が一生社会の下積みになって人生を過ごすのは堪えられなかった。僥倖を狙って居る訳ではないけれど、公平な機会が与えられる社会に住みたかった。日本ではその機会さえ与えられないのだ」 「お話を聞いていて、私、男と女は住む世界が違うなって思ったの、     
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