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「やあ、遅かったじゃないか。」
友人はもうすっかり待ちくたびれたという様子で、塔の周りをゆらり、ゆらりと漂っていた。塔というのは、宿主のいなくなった巻貝なんかを積み上げたもので、僕たちはそれを作っては崩して、また作っては崩して、そんな遊びをいつもしている。誰が一番早く出来るか、とか、順番に積んでいって誤って崩した者が負け、とか、そういう競争をすることもある。今日のこれは、いったい何回目の塔だろうか。
「今朝、父さんと母さんが、帰ってきたから。」
僕の両親は、僕のために遠くの海まで行って、食べ物や暮らしに必要な物を獲ってきてくれる。この辺りでは獲れない、というわけではないけれど、とびきり質の良い物を求めて、父さんも母さんも一生懸命だ。毎日行き来するのではなく、一度出かけると何日か戻らないこともあって、僕はその間たった一人で家を守っている。
「僕の父ちゃんも、今朝帰ってきたんだよ。」
塔の影から一番小さな友人が、ひょっこり顔を出して言った。
「今は、南の方が旬な時期らしいね。だから僕、今朝はいつもよりいっぱいご飯を食べたよ。」
小さな友人はぽっこり膨らんだ下腹を見せて、プクプク笑った。それを見て、二番目に小さな友人は呆れ気味に尾びれを下げる。
「そんなお腹じゃあ、いざという時どうするのさ。」
「大丈夫さ。何かあったら彼の腹の下へ隠れればいい。」
そう言って小さな友人は、僕よりも一回り、二回り大きい友人のそばへピッタリくっついた。大きな友人は眠たそうな瞳をしぱしぱさせて、ウン、ウン、と頷いている。きっと、話をほとんど聞いていない。
「まったく……。」
二番目に小さな友人は僕たちに背を向けて、高くそびえる塔をカラカラと崩し始めた。僕もそれに加わる。
「近頃は、この浅瀬だってあんまり平和じゃないって聞くよ。呑気なことを言っていられるのも今のうちかもしれない。」
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