道端にて…………とある邸宅の前

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 西洋式の古い邸宅だった。煉瓦の塀に、金属の重々しい門。白い壁に、翠の鱗状の瓦が敷き詰められた尖った三角屋根。  辺りのごく普通の建物達の中に紛れきれていないそれを不釣り合いだとか、不調和だとか、言いたくても言えない位にどっしりとした作りの家だった。  いや、それとも…………今、この状況に似つかわしい邸宅だ。とは、誰かがついうっかりと思ってしまっているのかもしれない。  普段は静かであろう邸宅の周りには、何人ものカメラを持った人が待機し、それぞれ好き勝手な事を言うアナウンサーを引き連れていた。  この邸宅が、殺人事件の舞台なんて、いかにも過ぎて…………でも、その「いかにも」が視聴者ウケすると狙う報道が毎日毎日、飽きもせずに新たなネタを探して、あちこちに鼻を突っ込んでいるのだった。  町の住民の大半は飽きてしまって、寧ろ迷惑そうに彼等を無視するのだが………… 「ちゃんと、モザイクしてくださいよね」 「ええ。古くから、ここに住んでますよ」 「あそこは明治に外人さんが建てた所を地主の××さんが買い取ってリフォームして住んでたんですよ」 「そうねぇ…………昔は使用人とかメイドさんとか沢山いたみたいでねぇ。息子さんに逃げられてからは、執事しかおいてなかったみたいですけど」 「あそこのご主人はなかなか偏屈で厳しい人だったんですよ。いかにも上に立つ人間といった感じで」 「えぇ。決して良い人ではなかったです…………奥さんがとても良い人だったから嫌われずにはいたけど」 「町内会の事とか、ご主人はやらんでいいみたいな態度でしたけど、そんなご主人に隠れて奥さんはきちんとやって下さったし、私達に色々と教えてくれて…………」 「良く付き合っているなぁ…………と。思ってましたよ。三歩後ろを付いて行きます。みたいな考え私には無理無理」
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