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「でもちょうどよかった、仕事が片付いたから、ご飯に行こうと思ってたんだ。お腹すいてる?」
その質問に、千晴は自分が空腹なことに気が付き、肯定した。
***
外は薄暗く、街灯がつき始めていた。昼とは少し違う雰囲気に千晴の気持ちは高ぶる。
「初日だから、歓迎会みたいなのもしたかったんだけどね、そういうことしたがる連中じゃないから。ちょっと豪華なディナーで許してね」
「とんでもないです。外食なんて家にいたころほとんどなかったから、それだけでもうれしいです」
「それならよかった。千晴ちゃん、嫌いな食べ物とかある?」
千晴はいえ、と否定する。
「なら、僕のおすすめの店に行こう」
二人は街を歩きながら、いろんな話をした。
「そういえば、部屋は気に入ってくれた?」
「はい。とってもかわいいお部屋です」
「さっきも言ったんだけど、あの部屋のセンスは僕の友人のものでね、マリアって子なんだけど、十数年の付き合いで、信頼してるし、優しい人だから、今度紹介しようと思って。何かあったとき女性にしか相談できないこともあるだろうから」
千晴はメリザの気遣いに心の底から感謝した。
「本当にありがとうございます」
「ちなみに二十四歳だけど、千晴ちゃんより小さくて、童顔だから、年下に見えると思う。でも、しっかりした人だよ」
メリザはマリアの顔を思い浮かべているのか、からかうような笑顔をで笑う。千晴は、初めてメリザの本当の笑顔を見た気がした。
「メリザさんにとって大切な人ですか?」
その質問にメリザは笑った。
「大切な人、ね。考えたことないなあ。どうでもよくはないけど。あ、それと、マリアは修道院に住んでてね、そこには孤児がいて、マリアもその一人なんだけど、そこの院長、ソルシアばあさんって言って、僕もいまだにお世話になってる人でね、きっと千晴ちゃんを歓迎してくれる」
メリザから教えられた情報が、複雑なもので、千晴は少し動揺した。しかし、メリザの顔は和やかで、千晴は、まだ見ぬ二人の顔をそっと想像した。
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