第四話

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第四話

 コンコン、とドアをたたく。中から返事が聞こえたかと思うと、すぐにドアが開いた。  「アルちゃんっ」  そこには三つ編みの少女が立っている。ここでは珍しい黒い髪に、大きな赤い目をした十歳の少女。アルシェルだと、分かると、無邪気に笑う。  「ラミア、久しぶり。元気にしてる?」  「うん。お手伝いもちゃんとしてるよ。アルちゃんも元気そう」  アルシェルの訪問がよほどうれしいのか、飛び跳ねる勢いだ。ラミアの笑顔は、アルシェルには眩しすぎるほど、曇りのないものだった。  「お姉ちゃん呼んでくるね、中入ってまってて」  ラミアに招かれ、中に入る。まっすぐ進むとダイニングテーブルがあり、その椅子に腰を掛けた。アルシェルはフォルティアに来るたびにこの孤児院に来る。親のいない子供たちの集まり。それはアルシェルに通ずるものがあった。  どこに行ってしまったのか、行方がしれない家族を思い浮かべた。  ふと、目線を上げる。小さな子供が描いたであろう絵が貼ってある。前に来た時にはなかったものだ。ここにはいろんなおもちゃがある。寄付されたものがほとんどで、そのどれもが使い古されているが、そのどれもが大切に扱われていた。  今の時間、子供たちは掃除に励んでいる。あたりを見渡せば、アルシェルを珍しそうに見ながら、掃除をしている。珍しそうに、といえど、それは街の人たちが向ける好奇の目ではなく、純粋に、アルシェルの姿を久しぶりに見たからだ。  アルシェルがぼんやりと、子供たちを見ていたら、ふと優しい声で呼ばれた。  「アル、久しぶりね」  振り向くと、背の低い銀髪の女性が立っていた。アルシェルはそっと目を細める。しかしその様子は、前髪に隠れて見えない。  「久しぶり。マリア。元気そうで何より」  「それは私のセリフよ。ちっとも姿を見せないんだもの。捕まっちゃったのかと思った」  マリアは言いながら、アルシェルの正面に座り、机に置いてあるポットで紅茶を入れ、アルシェルに差し出す。
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