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「ありがとう。というか、もしそうなら笑えないね。でも、何度か、ほんとに危なかった。なんでだろうね、犯罪者でもないのに、いつも逃げなきゃいけない」
「アルはいつも笑ってるもの。そんな寂しいことも笑いながら言う」
寂しい事?、と聞き返しながらも、口角を上げ、楽し気な口調で言う。
「寂しいよ。悪魔ってだけで、そうなってるんだから」
アルシェルとは反対に、マリアの顔は真剣で、少し悲しそうだ。
「そんな悲しそうな顔されると、危ないことをしずらくなってしまう」
「危ないことなんてしないでよ、私より年下のくせに」
「マリアより年下だから危ないことができないのなら、僕は一生危ないことができなくなるよ」
「・・・・・・しないでよ、ばか」
「ごめん。でも、大丈夫。僕は、まだ生きている」
マリアの真剣な訴えに、思わず謝る。それでも笑顔のアルシェルに、マリアは何が大丈夫なのかわからなかったが、半ばあきれながら話を変えた。
「そういえば、知り合いが研究所を持ってるって言ってたでしょ。そこに新人の女の子が入るみたいなんだけどね、その子向こうの世界から来るみたいなの。たしか今日くらいに到着するって言ってたわ」
「向こうの世界?」
「聞いたことくらいあるでしょ、セントラルにある扉でつながってるもう一つの世界」
「ああ、あれ、人が来れるっていうのは初耳だ」
「私もびっくり。どんな風につながってるのかしらね。ここにも遊びに来させるって言ってた。もしかしたら、会えるかもしれないわね。アルと同い年らしいわ」
「会ったところでねえ」
二人が話していると、玄関が開く音がする。アルシェルが振り向くと、目を細めて笑う老婆がいた。修道服を纏い、少し猫背だ。
「あ、ソルシアさん。ご無沙汰してます」
「アルシェル、よく来たね。元気かい?」
「おかげさまで」
挨拶を交わすと、ソルシアが思い出したように話を切り出した。
「そうだ、アルシェルに伝えようと思っていたことがあるんだわ。マリア、少し席を外してちょうだい」
マリアは首をかしげながらも、分かったわ、と頷き、立ち去る。その空いた椅子にソルシアが座り、アルシェルと向き合った。
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