第二話

1/2
前へ
/20ページ
次へ

第二話

 何だか久しぶりに来た気がするな、と少年、アルシェル・カインは心の中でつぶやいた。  前髪をのばし、深く帽子をかぶっているため、表情は見えない。全身を黒い服で統一し、腰のあたりまで伸びた銀色の髪は、悪魔としての象徴だ。  森を抜け、フォルティアの東区に入る。アルシェルは目的地まで速足で歩くことにした。フォルティアを歩くと、その風貌に視線を集めるが、あまり気にしない。もう慣れていた。  悪魔という存在は、あまり人間には受け入れてもらえない。それでも他国とは違い、歩いているだけで銃を向けられることがない。フォルティアは、平和なほうだ。アルシェルが生まれ育った国は、悪魔に対する差別が惨憺たるもので、多くの仲間が殺されている。  東区は、人間の移民や、悪魔が多く住んでいる。そのためか、フォルティアの中では比較的物価が低い。店が並ぶ通りの一番奥に、ひっそりと営業している洋服屋が目的地だ。  openと書かれた札がかかってあるドアを開けると、カラン、と音が鳴る。黒い服を多く扱っているため、店内は暗いが、よく見ればアクセサリーなど、かわいい小物も置いてある。こじんまりとした店だ。  「あら、アル。いらっしゃい」  アルシェルと同じ銀髪を高い位置でツインテールにした女性で、ゴシック調のドレスがよく似合う美人だ。アルシェルより二つ年上の二十歳で、ヒールも含んでいるが背も少し高い。  「ヴィヴィ、鞄を取りに来たんだけど、直ってる?」  その質問に、もちろん、と頷き、奥に向かって声を掛ける。  「アンナ、アルが来たわ。鞄を持ってきてちょうだい」  すると奥から、やや間延びした少女の声が返ってきた。  「今回は、やけに間が空いたわね。忙しくしてるの?」  アルシェルは前に戦ったときに破れてしまった鞄の修理を頼んでいた。いつもなら一週間ほどで取りに来るのだが、今回はひと月も間が空いてしまった。ヴィヴィの言い方は、決して攻めているわけではなく、アルシェルを心配している様子だ。  「う、ん。まあ、やつらが南にまで手をだそうとしてるのか、最近接触率が高くなってきてる。東の偵察をしているやつも結構いるみたい」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加