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藤堂の腕の中で安心しきった顔をする啓悟につられたのか、隼人が甲斐を抱き締める。一瞬、驚いたように眉をあげた甲斐は、だがそのまま隼人の胸に背を預けた。
普段は忙しい毎日を送る面々にとって、誰の目を気にする事もなく穏やかな時間を過ごせる事は、とても幸せだった。
その夜。啓悟と隼人のリクエストにより、夕食に腕を振るったのはフレデリックと藤堂である。
リビングのオープンキッチンに並ぶ二人は、控えめに言っても男前すぎた。
「なあなあ隼人、あれ絶対腐女子が喜ぶヤツ…」
「啓悟…藤堂さんを取られたくないと、そう言っていませんでしたか?」
「えっ、それとこれとは話が別だし」
言いながらスマホのカメラを藤堂とフレデリックへと向ける啓悟に、辰巳が呆れたように問い掛ける。
「なんだその婦女子ってのは?」
「んー…たぶん辰巳さん、それ字が違う」
「あぁん? 訳わかんねぇな。何だよ字が違うって」
「俺が言ってるのは、腐ってる方の”腐”女子!」
カシャカシャと小気味よい音をたてながらキッチンに立つ藤堂とフレデリックを撮影する啓悟の説明は、当然ながら辰巳には要領の得ないものだった。何せ辰巳は、一年ほど前まで”コスプレ”という言葉さえ知らなかったのである。というよりも、サブカルチャーに疎いと言うべきか。
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