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「何?」  由加里は尋ねた。夫は何が不満なのだろう。洗面台の下には、ちゃんと洗浄液を置けるほどのスペースが空いている。 「これ、どういうこと?」 「どういうことって?」 「この洗剤の数、ちょっと異常じゃない?」夫は洗面台下に並べられた、様々な洗剤のスプレーボトルや缶、その他掃除に関する道具の数々を、忌々し気に睨んだ。「本当にこんなに必要だったの?」  どうやら夫は、由加里が散財していると疑っているらしい。 「必要だよ。それぞれ用途があるんだもの」 「いいや、必要ない。トイレ掃除用の洗剤だけで、四種類もある。多すぎだよ」 「必要なんだよ。だってうちのトイレ、すっごい汚いから」 「そんな汚れてないだろう。変なこと言うなよ。別に俺、由加里を責めてるわけじゃないから」  それから夫は、小さな子供にでも言い聞かせるかのように、 「どの洗剤も、使いかけだよな? 新しいものを見つけたら、次々試してみたくなる気持ちもわかるけどさ、いい大人なんだから欲しくても我慢しようよ? な? 今使ってるのを全部使いきってから、新しい洗剤に手をつける。そういうふうにしていかないと」  由加里の目を覗き込んだ。 「ろくに話も聞かないうちから、決めつけないでよ。こっちは別に、新しい化粧品試すみたいな感覚で洗剤選んでるわけじゃないんだけど」  夫から視線を外し、由加里は言う。 「必死なんだよ、切実なんだよこっちは。毎日毎日、家中隅々まで掃除して、どうやったら何を使ったらよりきれいになるか、何度も試して研究してんだから」  無意識に、声を荒げていた。 「別にそこまでやらなくても、充分家の中きれいじゃないか」  夫は呆れたように言う。  それから何を勘違いしたのか、 「いつもありがとう。掃除、頑張ってるよね。すごいよ由加里は。掃除のプロだよ」  とおざなりに褒め称えた。
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