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「何言ってるの? 全然きれいじゃないよ。汚いよ。わかんないの? 気付いてないの?」
「なあ、どうしちゃったんだよ由加里。前はそんなにきれい好きとかでもなかっただろ」
「どうしちゃったも何も、家が汚いから掃除するしかないんじゃない! わたしだって好きで掃除してるわけじゃないよ。手も荒れるし、洗剤が飛んだところはニキビになるし、腰とか肩とか痛くなるし」
「そ、そこまで根詰めて掃除しなくても大丈夫だよ。由加里はいつもよくやってくれてるから。むしろ手を抜いていいくらいだよ」
夫の手が伸びてきたので、由加里は反射的にそれを振り払う。「触らないで!」
夫は一瞬、傷ついた顔になった。
「……何か不満があるなら聞くからさ、溜め込まないで俺に言ってよ」
そして、縋るように言う。
「こんな発散の仕方されてたんじゃ、なんか心配だからさ。掃除とか家のこととかにぶつけないで、えーっと……気分転換にパートでも始めてみるのはどう? カルチャー教室に通ってみるんでもいいし、掃除じゃなくも色々方法はあるじゃん。とにかく由加里は家に居すぎなんだよ。少し家のことから離れないと。ちょっとくらい家が片付いてなくても俺は平気だし、それで由加里を責めたりもしないから」
「ああ、もう……」由加里は呻いた。「だからさあ、ちょっとどころの話じゃないんだよ」
「はい?」
「ちょっとじゃないよ。玄関リビングキッチン廊下トイレ洗面所風呂場寝室和室……どこもかしこも、家中あんたの抜け毛だらけなんだよ! いくら掃除しても掃除しても、床に毛が落ちるの! 大量に落ちるの! 落ち続けてるの! だから掃除し続けるしかないの!」
「え……何、俺のせいなの?」夫はたじろいだ。
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