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「ただいま」と言った声で、機嫌の良し悪しが判断出来る。夫は顔や態度に感情が表れやすい。今夜の夫は、不機嫌だ。昼間、あるいは帰宅途中にでも、何か気に入らないことがあったのだろう。  仏頂面でリビングに入って来た夫は、鞄をソファに放り投げると、 「今日のごはん何?」  と尋ねた。 「サラダときんぴらと揚げ出し豆腐」盛り付けをしながら、由加里は答える。「あと、鯖のトマト煮」 「魚かあ……」 夫は露骨に不満の表情を浮かべた。 「ウインナーか卵焼きでも焼こうか?」 「うん、そうして」 「どっち?」 「両方」 「了解」  手間だなと思いながら、由加里はシンクの下から卵焼き器を引っ張り出す。  食卓についた夫は、早速後輩の仕事ぶりについて、由加里に話して聞かせた。最近下についたというその後輩を、夫は毛嫌いしている。 「こっちの指示に対してさ、わかってないくせにわかったふりするんだよ。わかってないからさ、結局自己判断で進めて、失敗してどうにもならなくなって、俺に助け求めてくんの。俺は俺で、自分の仕事があるのにさ。あいつのせいで予定狂いまくり。ほんと迷惑。最初からわかったふりすんなって話だよ。そういうことを今までに何度も繰り返してんだよ、あいつは。正直にわからない、出来ないって言うのが、悔しいんかね。ああいう使えない奴に限って、プライド高いんだよな。扱いずらくて困るよ。疲れる」  夫と暮らすようになってから、由加里は二つの事柄について学習した。  一つ目は、夫は案外愚痴っぽいということ。表ではさっぱりしているように装っておいて、家の中では陰湿で粘着質な一面を見せるのだ。愚痴や陰口などは女性の専売特許だと思っていたが、実際はそうでもないらしい。いや、夫が例外なだけで、やはり大方の男性は妻に延々と愚痴などこぼさないのだろうか。
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