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夫の毛を排除しきった午後のリビングで、由加里はキイナのSNSにアクセスする。昨夜からアップされている写真は五枚。夕食、お薦めのバスソルトとハーブティー、朝食、番組スタッフからプレゼントされたという花の写真に、自撮り。由加里は一枚一枚に、コメントを残していく。
「美味しそう! キイナちゃんの食器のセンス、見習いたいです」
「そのバスソルトはどこで買えますか?」
「朝からしっかり食べるんですね。フルーツの切り方、すごく可愛い~」
「キイナちゃんがクローバーで読モをしていた頃から、大ファンです。可愛くてスタイル良くておしゃれなところはもちろん、こんな風に周りの人に感謝の気持ちを忘れないキイナちゃんの人柄に、一番憧れています!」
必死に文面を考える。どんなことを書けば、キイナは喜んでくれるのか。
のめり込むあまり、過剰にへりくだったコメントになってしまうときがあるので、注意が必要だ。書いては消し、読んでは直しを繰り返す。
由加里は自分の中に、キイナに対する罪悪感があるのを意識した。昨夜、うちの夫があなたのを悪く言ってしまい、すみませんでした。
せめてもの償いにと、キイナを持ち上げるコメントを送る。もちろん夫の声がキイナに届いているわけなどなく、そもそも彼女がファンのコメントを一つ残らず読んでいるのかもあやしい。それでも何かせずにはいられない。万が一キイナがコメントを読んで、少しでも気を良くしてくれたのなら、由加里は救われる。
三十分程前にアップされたキイナの自撮り写真には、告知が添えられていた。「もうすぐ放送です! 観てね~」と番組名を記している。どうやらキイナは今日放送予定の情報番組に、ゲスト出演するらしい。
時刻を確認し、由加里は舌打ちする。告知に気付くのが遅れた。放送はすでに始まっている。
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