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「明後日、千絵と会うことになったんだ」  帰宅した夫に、由加里は告げた。  昼間の千絵からの着信は、お茶の誘いだったのだ。  夫は渋い顔をしている。 「何? 明後日、わたし何か遼輔から頼まれ事されてたっけ? 宅配便の受け取り? 家空けちゃまずい?」  由加里は焦り気味に訊いた。  夫の様子から、不穏なものを感じ取った。 「……ていうかさあ」夫が口を開く。「うちの周り、野良犬いるだろ」 「は? 野良犬?」  由加里は呆気に取られた顔で訊き返した。 「帰って来るときにさ、ここ最近いっつも見るんだよ。この辺をうろうろしてて……。最初はどっかの家から逃げたのかとも考えたんだけど、首輪もしてないみたいだし、薄汚れてて、明らかに野良なんだわ」  なぜこのタイミングで犬の話題を持ち出すのだろう。  由加里は困惑を隠し、ひとまず夫の話に相槌を打つ。「へえ、知らなかった。いるんだね、野良犬なんて」 「ああいうのってさ、保健所に通報したら捕まえに来てくれるんだよな」 「通報、するの?」 「しなきゃ駄目だろ。この辺は子供も多く歩いているんだから。野良犬が子供に飛びついたり噛みついたりでもしたら、大変なことになる」 「え、そんな凶暴そうな犬なの? 大きい?」 「いや、大きくはないけど」夫はそこで、鬱陶しげに目を細めた。「やっぱり野良犬をそのままになんてしておけないから」 「そうだね、危ないもんね」  由加里は知った顔で、深く頷いてみせた。途端に、夫の目がさらに細くなった。 「もしかして由加里、今それを理解したの?」夫が、問い詰めるように言う。「野良犬の存在を知らされた時点で、危ないだとか不衛生だとか、自分らが生活するのにマイナスなことくらい気付くだろう。それを前提で俺は由加里と、保健所への通報について話し合うつもりだったんだけど」
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