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「こんな平凡でクソみたいな人生わたしは嫌!」
頭の中でこだまする若き日のわたしの声。
残業を終えた22時すぎの暗がりの道路を、規則正しく右左と交互に前へ出る自分の足を眺めながらぼんやり考える。
22.23.24...あれから8年も経ってしまったのかとわたしを追い抜く、同じように労働を終え家路を急ぐ者達の背中を見てふと思う。
まだ高校生だったわたしは、周りに田んぼと山しかないような田舎で閉鎖的に暮らす両親のことを軽蔑していた。とりわけ父のことを。
若い頃は絵描きを目指していたという父の、その理想とは遠く離れた草臥れた背中をどうしても尊敬することはできなかった。
毎日同じ時間に出勤し、同じ時間に帰宅する。
同じ時間に夕飯を食べ、同じ時間にニュースを見、風呂に入り就寝する。
そこには大きな絶望も輝くような幸福も当時のわたしにはないように感じた。
見えたのは、ただこれからもずっと同じように続くと約束された終わりの見えない時間の軸と、メトロノームのように同じ感覚で刻まれた足跡だけだった。
規則的にただ平凡に流れる毎日にわたしは埋もれたくなどない。その一心だった。
今思えば若気の至りと呼ばれるものであったと思う。
いやそれこそが若さたる根源だったのかもしれない。
平凡さを否定し、夢のような非凡たる日常がわたしには待ち受けていると哀れなくらい期待していた。
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