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あれは家を飛び出した18歳の時に父に言い放った台詞だった。 その後に飛んで来た父の右掌の感触を今でも痛いほど覚えている。 憎しみと反発を込めて睨み返したわたしを、父は悲しげに見ていた。 父はなぜか叩いたその右掌を、左手できつく握っていた。 母はわたしの味方でも父の味方でもない人だった。 果てしない中立的立場で家庭を守ろうとする人だった。 故に母からも理解は得られなかった。 わたしには夢があったのだ。 田舎の小娘が安易に夢を見た世界。テレビという箱の中の輝かしい世界。 食い入るように見続けたその光に手をかけたい一心であった。 きっかけはなんでも良かった。 とにかくあそこに近づくためにはこの町を出ないと。 その為に適当な御託を並べて東京の私立大を志望した。 それに父は反対したのだ。 一人娘ということもあったのかもしれない。 昔からよく風邪を引く、比較的華奢な体格のせいだったのかもしれない。 とにかく父は昔から、わたしを自分の目の届く範囲でしか生活をさせたがらなかった。 それがわたしの目に見えぬはずの鳥かごを幻想させた。 見えぬはずの窮屈が常にわたしを襲っていた。 飛び立ちたいわたしを閉じこめ続ける悪魔だった父がわたしは、大嫌いだった。
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