陽溜まり

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 私の記憶に残る、まだまともに歩けていたころのおじいちゃんの最後の姿は、私が十二歳の年の三箇日、中学受験を間近に控えていたころのものだ。  元日だったか二日だったか、その日親戚の集まった前で私と弟は大きな喧嘩をした。たしか母の手伝いで飲み物を運んでいた時に、ゲームをして寝転がっていた弟の足につまずいて転び、運んでいたカップをみんな落としてしまったのである。私は弟に文句を言って、そこから喧嘩が始まったのだと思うのだが、結局、母にひっぱたかれたのは私だった。 「あんたは集中力がないのよ。どうして下を見て歩かないの!」  親戚みんなの前ではたかれて、私は黙ってこぼれたお茶を拭き始めた。その時パンッと小気味いい音がして、弟が泣きだした。 「お前も拭け」といって弟を殴った時のおじいちゃんは、まだ寝たきりでなどなかった。
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