陽溜まり

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陽溜まり

 私のつくるレモネードは、薄くてまずいと敬遠される。 市販のパック入り原液にお湯を入れるだけなのだが、生来のけち臭い性分からか、どうも出し惜しみするらしく、上手い配分ができない。弟など「おしっこみたいな色してる」と言って、私が親切でつくってやったのを、飲まずに捨てることすらあった。  その薄いレモネードが、カップの中で湯気を立てている。  私はその横でテーブルに頬杖をついて、今日借りてきた小説をめくっていた。 「じゃあ、留守居、頼まァな」 祖母の声に「うん」と、本から目線も上げずに答えると、それは「じいちゃんはさっき小便いかしたから平気だろうが、」と不安そうに続いて、 「そいじゃ頼まなあ」 もういちど念を押してからやっとやんだ。私は足音が玄関まで遠ざかるのを聞き、それからカラカラと戸が開いて閉まるのを聞いてからようやくカップを手に取って中身をすすった。
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