1人が本棚に入れています
本棚に追加
ひゅ、と風を切る音が耳元を掠める。
しまった、と思ったがもう遅い。
気が付けばここはもう戦場のまっただ中で、自分達は武器を持っている。
その時点で敵とみなされても仕方がない状況だった。
―――くそ、山沿いを行くべきだった……っ!
ティトは心の中で軽く舌打ちをすると、昆を構えて襲い掛かってくる戦士を打ち倒した。
それはこれから向かうはずのインテグリフォリアの兵士だったのか、アル・アジールの兵士だったのか。
もしも前者であったならば申し訳ないことこの上ないが、現状を脱するにはそうするしかなかった。
その豊潤な実りを狙われ、歴史ある大国インテグリフォリアと、新進気鋭のアル・アジールとの一触即発の状況を打破するべく立ち上がったティト。
どちらに組した方が得策かなんて、考えるまでもない。
シャルキー族の年若い族長アルカの兄として、村を、一族を、そして何より大切な妹であるアルカを護るためには、歴史ある大国にすべてを任せた方がいいに決まっている。
そう判断し、同志を募ってインテグリフォリアへ賛同の意を示すために村を出たティトだったが、どうやら進行経路の目測を誤ったらしい。
両軍が争う場を避けて来たつもりであったのに、気が付けば戦場に入り込んでいて、戦闘に巻き込まれる形になっていた。
村を出る時、哀しそうな顔して自分を見送ったアルカの姿が頭の中をよぎる。必ず帰ると約束した。この状況を落ち着かせて、必ず元の平和な毎日を送れるようにすると約束した。こんなところで、足止めを喰らっている場合ではないのだ。
「みんな、無事か!?」
インテグリフォリアに向かおうと賛同してくれた皆を振り返ると、ティトと同じく、困惑しながらも迎撃している様子だった。
しかし、それも一時の事。
いきなり戦場に現れた一行を味方とみなしてくれるわけもない。
最初のコメントを投稿しよう!