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結果としてインテグリフォリア、アル・アジールの両軍に攻められる形となったティト達の一行は、逃げることも叶わず、防衛することが精いっぱいだった。
「ティト、このままじゃオレ達やばいぞ!」
「わかってる……っ!」
一行のひとりが、年若いリーダーを振り返って叫ぶ。
分かっている、分かってはいるが、どうやってこの状況を脱したらいいのかが分からない。
「くそ……っ、少なくともインテグリフォリアにとっては、おれ達は敵じゃねーのに……っ!」
そう叫んでも、戦場ではかき消されるだけ。
ティトは、もう何人目かなんてわからない兵士をまたひとり打ち倒しながら、自分の甘さを後悔していた。
もっと慎重に、経路を検討するべきだった。これは完全に自分のミスだ。
しかし、それを悔いても何も始まらない。
今自分がするべきなのは、自分の考えに賛同しついて来てくれた一族の皆を守って、インテグリフォリアへと無事たどりつくことだ。
「誰か……っ、誰か偉い奴はいないのかよっ! インテグリフォリアの、偉い奴はっ!」
一兵士ではない、立場のある誰か。そんな人物と話が出来れば、なんとかなるかもしれない。
けれどきっとそういう人物は、こんな最前線で雑多な戦い方はしない。少し離れたところか高みにいて、戦況を冷静に見ているはず。
だとしたら、自分達が急に入り込んだことも『違和感』として察してくれるかもしれないと、そう思ったのだ。
しかし何時まで経っても、どこを見ても、そんな人物は見当たらない。
最前線とはそういうものなのか。誰も気づいてはくれないのか。
インテグリフォリアにたどり着くことすら叶わず、自分達はこのままここで朽ちてしまうのか――そう、諦めかけた時だった。
「何をやってる! 一般人が巻き込まれているだろう!」
「え……っ」
周囲の兵士を一喝する、凛とした声が響く。
その声にティトが振り返ると、そこに在ったのは黒い影。
金色の髪を風に揺らし、ふわりと舞うように華麗に剣を振う姿。自分にはない、今までに見たこともないような美しいシルエット。
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