両片思いの中間地点

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多分、両片思いの中間地点にいる。 一目見た時から解っていたのよ。あの人、あたしのことが好きだって。あたしを見る目、すごく厭らしかったし、すごく顔を覗きこんでくる。きっと期待してるんだ、あたしという女に。天塩に掛けて育てたあたしっていう女を、搾取したくてたまらないんだ。あたしに向けられたあのレンズの向こうには”あの人”がいて、涎を垂らしながら股間を抑えているに違いない。 あたしはあの人が歪んでいるのを知っている。何がどう歪んでいるって?あの人とあたしはお互い片思いなのよ。それは本当。だけど、両想いになるには埋められない距離があるの。それが歪んでいるっていう理由であり正体なの。解る?あたしは”どの子”よりも近い距離にいるはずで、いつだって愛し合う準備が出来ているのに、”あの人は”あたしに踏み込めない何かがあるの。  ちょっとだけ、お勉強の話をしてあげるわ。中学生の理科の授業で習うことよ。おさらいってことね。遺伝の話よ。身近だけど、忘れがちな話。人から人が生まれるでしょ?形質を引き継いで生まれてくる。けれどこれには法則があって、有性生殖では”まったく同じ人間は生まれてこないってこと”なのよね。雄と雌の特徴を両方貰って生まれてくるでしょ、子供って。愛の結晶とかってやつ。でもそれって、”あの人”からすれば、とっても迷惑な話なのよ。どう迷惑かって?子供なんて、いらないからよ。自分の遺伝子なんて、混ぜたくなかったの。愛した女をもう一人作りたかったのよ。アメーバやゾウリムシみたいに、クローンをもう一人作りたかった。どこにでもいるじゃない、そんな科学者。彼もそういう”歪んだ”研究をしてる1人だってこと。
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