両片思いの中間地点

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「A-13号、こちらにこっちにこい」 カチンって、錠前を開ける音がして、”あの人”が入ってきた。壁も、床も、真っ白なこの部屋に一歩踏み入れると、茶色い癖毛がよく映える。部屋の隅で蹲っているあたしの顔を見下ろして、一向に立ち上がる気配がないあたしの腕を掴むと、無理やり引っ張って歩き出した。仕方がないから数歩歩いて、転びそうになりながらなんとか身体を支えて歩いた。あたしにはもう歩く力がない。だって5日前から何も食べてないし、寝てもいないから。   ”あの人”に引っ張り出され、廊下に出た。真っ白な廊下。埃一つ落ちていない廊下。病衣の私と”あの人”の白衣とはまた違う白がずっと続いている。廊下の先には扉が見えた。 「ねぇ、ねぇ、あたし、いつから寝てないと思う?」 扉に辿り着く前に、お話がしたくて、声を張り上げた。だけど届いているはずなのに、”あの人”は振り向いてもくれない。あたしを見てくれないで、ずっとあの扉目指して歩いてる 「5日よ!5日。あなたと一緒、あなたがあたし”だけ”を見てくれる、この5日間、あたし、ずっと起きてた!あなたの視線を独り占めできているって思ったら嬉しくて!ねぇ、5日ずーっとあたしのこと見てて、どう思った?好きって思ったでしょ?好きでしょ?”もう足りないものなんてないでしょ?”12人分の”あたし”から足りないものを全部詰め込んだ”あたし”だよ!あなたの好みの女になってるでしょ?だからちゃんと愛してよ!こっち見てよ!14号なんて見ないで!!明日もあたしのこと見て!どんな注射してもいいから!記憶が足りないなら妄想だってする!言ってくれれば全部あなたの思った通りにするよ!だからあたしにして!あたしを”ミッシェル”にしてよ!」
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