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そして、岸結は突然立ち上がり、紗季の左横まで歩き、そこで止まった。
「君は催眠術にかかっている」
紗季は岸結にそう言われた直後、頭に激痛が走った。その痛みは普通の頭痛よりも、何倍も痛いものだった。思わず、あっ、ああぁぁと悲鳴が漏れる。よく見ると、岸結が紗季の頭の真上で頭を握り潰すような仕草をしていた。
「今、僕は君の脳を掴んでいる。握りつぶされたらどうなると思う?」
岸結は悪魔のような質問を紗季に投げかけ、握り潰す強さを増した。さすがは、悪魔の検事と呼ばれるだけのことはある。紗季の悲鳴はさっきよりも増した。
「きゃああああぁぁぁ!もうやめて!」
岸結は仕草を止めると座っていた椅子に戻り、カチ、カチとノックを2回し、催眠を解いた。
紗季は、伏せていた頭を上げると、何事もなかったかのように辺りをキョロキョロした。そして、紗季は再び岸結に向き直った。
「け、検事さん。私、いったい何を...」
「それは、今ここを写しているCCTV(監視カメラ)で確認しましょう」
岸結はそう言うと、またにっこり笑った。
紗季はその笑顔を見て、微笑んだ。
ーあ~、誘惑したい。
取調室を出た後、紗季は岸結と共に催眠術の様子を確認していた。
画面上には左に紗季、右に岸結がいる。岸結がボールペンを鳴らし続ける。ここまでは、紗季の記憶にも残っている。
やがて映像は進み、岸結が紗季の前で手を翳し何かを握りつぶすような恰好をした時、紗季は苦しみ始めた。その出来事に、記憶の無かった紗季は思わず目を剥いた。
ーこれは、一体何が起きているの?
映像を見続けるたび疑問が湧く。そんな紗季の疑問に答えるように、岸結が言った。
「これは僕の催眠術によって錯乱状態を起こしている状態です。まあ、僕はあまりこんな催眠術はかけませんが」
「え?じゃあ私はこの時、その催眠によって本当に心臓を鷲掴みにされたような感覚を味わっていたって事?」
「そうです。まあ、簡単に言えば...」
さっきまで、紗季は岸結の事を可愛らしい見た目をしたひよっことばかり思っていたが、その本性は修羅の様に恐ろしい事を憶えた。
ーこの男は一体、何者なのかしら。
その問いに答えるものは誰も居なかった。
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